英雄の死

 
 


 夜風に乗って耳慣れた詠唱が漂ってくる。少年は暗い天幕の中で横になったまま、目をぽかりとあけてそれに聞き入っていた。
 高く低く唸るように続く詠唱と3弦の琵琶、規則的に打ち鳴らされる鈴の音は葬送の列のものである。砂漠では、葬儀を死神の領域である夜に部族の男たちで行うのが習いである。死者の身体を板に乗せて、村から少し離れた『死の家』に運んでいくのだ。葬送の列を見ることは、女子供や部族外のものには許されてはいない。だから、少年はそれを見たことがない。竜狩人はいつも余所者である。だが、職業柄ひとの死にはよく行き会うから、葬送の詠唱や、魔よけの香木の青臭いにおいは身に染みつくぐらいよく知っている。
 詠唱が遠ざかってゆく。旋律のはっきりしない詠唱は、どこか悲しげな響きをもっている。隣の天幕では、残された女たちがひっそりと被り布を涙で濡らしているのだろう。
 少年は父の死を思った。顧みられなかった遺骸を思った。自分もきっとあのように死ぬのだろうと思う。
 だが、それはまだ先の話だ。かれはまだ、父の仇を見つけていない。